序章 アナビアン家の歴史とペルシャ文化財の紹介

かつて、地中海から北インドまで広がったアケメネス朝ペルシャ帝国が紀元前5世紀に拡大し、その地はアーリア人の国、「イラン」と名付けられました。ペルシャの歴史は、7000年前に北部の標高3000メートルの高原地帯から始まりました。その長い歴史が他の民族の文化に与えた影響の大きさは計り知れません。

日本との関わりも非常に重要なものがあり、奈良正倉院の御物のなかにシルクロードを仲立ちとしたペルシャと日本の交流の歴史は感動に値します。世界の貴重な文化財のなかでも日本の正倉院の如く倉の中で伝世品として保存された所はありません。その中の一つにペルシャのカット・ガラスの碗(約1500年前の円形切子装飾瑠璃碗)があったことは日本の教科書に載るほどです。

日本の考古学者が1950年代イランを訪れ始めたころ、出土品で銀化した正倉院と同じ碗と出会い、ペルシャ美術が歴史学者や研究家たちの関心の的になりました。正倉院三彩、ペルシャ三彩、唐三彩、宋三彩などの焼き物はすべて一つの糸で繋がった姉妹関係にあると言えます。それらが中央アジアを越すシルクロードによってお互いに影響し合ったことを考える時、歴史の大ロマンに引き込まれます。

アナビアン・コレクションとは、イランの首都テヘランにおいて100年以上続いた古美術、ペルシャ絨毯及び錦の老舗(しにせ)である。アナビアン家がペルシャ美術工芸品コレクションの保存に果たした役割は大変重要で、その蒐集品は紀元前5千年ごろからの美と伝統の歴史を示すペルシャ全土から出土した土器、青銅器、陶器金銀器、珠玉、ガラス、タイル、石彫、動物の形をした器、イスラム芸術、そして、日本の現代陶芸との繋がりも示すものもあります。特にイランの染色美術に関しては、20世紀の初頭に、製法伝授が消えてしまったペルシャ錦やカシミール毛織物のコレクションも多く、世界随一といわれています。これらは、美術としては勿論、学術的にも人類の遺産というべきものとなっています。

 このように世界的に高い評価を受けているアナビアン・コレクションを日本の皆様に紹介し、歴史的な交流を続けることを願っています。